韓国で話題になった、自己啓発書を訳しました。

読書記録『불편한 편의점(不便なコンビニ)』

불편한 편의점(不便なコンビニ)/김호연

나무옆의자 2021.04.20

こんにちは。

私は普段、本を購入する際に教保文庫の新刊情報や売上ランキングを参考にすることが多いのですが、ここ最近『불편한 편의점(不便なコンビニ)』という作品が上位にランクインし話題になっていました。今日はこの作品について紹介しようと思います。

本書はオムニバス形式で読みやすく、とても心温まる作品です。「コンビニ」という私たちに身近な場所を題材に人との繋がりの大切さが描かれています。また韓国でどのようにコロナが拡大していったかといったところも物語に落とし込んであるので、フィクションでありながら妙に現実味を感じる作品でもありました。

・この本について

어쩌다 보니… 불편한 편의점이 돼버렸습니다.(拙訳:どういうわけか…不便なコンビニになってしまいました。_p.144)

『망원동 브라더스(望遠洞ブラザーズ)』で世界優秀を受賞した著者の5作目の長編小説。

ソウル駅でホームレスをしている主人公が、とある女性のポーチを拾ったことから拾うところから物語ははじまります。女性はお礼に自分が運営するコンビニで好きなときに好きなだけお弁当を食べないかと申し出ます。一見怖そうな見た目や拙い話し方からは想像のできない細やかな気遣いを目の当たりにした女性は、ある時深夜アルバイトをしてみないかと提案します。

公務員試験を準備する女性、会社でも家でも居場所がなくコンビニでの晩酌が唯一の生きがいの会社員、悩める劇作家、母親のコンビニを売ろうとする息子、その息子に依頼された興信所の老人―。

彼らにとって不便で居心地が悪いだけだったコンビニでの主人公との出会いが、彼らの考えや行動に影響を与えます。

そして彼もお客さんと向き合うことで自分自身と向き合い、アルコール中毒により忘れていた数年間の記憶を少しずつ取り戻していきます。

・コロナ禍の今だからこそ

本書の後半部分ではコロナが大邱から拡大し徐々に人々の生活に影響をおよぼしていく様がリアルに描かれています。それほど、コロナ禍の今が日常になってしまったという悲しい思いと、だからこそ、この小説の日常のような非日常が読者により大きな感動を与えているのではないかと感じました。

コロナ禍を描写した作品といえば、キム•グミ『복자에게』ではラストシーンでパンデミック下のフランスの様子が登場しました。またチェ•ウンミ「여기 우리 마주」ではコロナ禍で奮闘する女性たちの姿が描かれていて、こちらの作品もとてもオススメです。

・個人のつながり、社会のつながり

결국 삶은 관계였고 관계는 소통이었다.(拙訳:結局のところ人生とは関係で、関係とは疎通だ。_p.252)

就職が上手くいかない、家族と上手くいかない、仕事でスランプに陥った、家でも職場でも居場所がない、独りで迎える老後への不安―。一見すると個人の悩みにスポットが当てられていますが、主人公や不便なコンビニとの関わりを通して心情や環境に少しずつ変化が生まれていきます。人は決して一人では生きていけない。個人と個人のつながりが社会とのつながりを生むという、当たり前のことに気づかされました。

こうした個人の問題の中に、ホームレスの問題やコロナの拡大など社会問題をうまく落とし込んでいるところは、韓国小説の特徴であり作者の技法なのかもしれません。

 

本書がとてもおもしろく、早速作者の別作『망원동 브라더스(望遠洞ブラザーズ)』も購入しました! これから読むのが楽しみです。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。